身近な材料で「動く仕組み」を作る遊びで子供の創造力と探求心を育む:保育での実践アイデアとねらい
子供たちは、「どうしてこうなるんだろう?」「どうやったら動くかな?」という疑問や、「こうしたい!」という気持ちを原動力に、遊びを通して様々なことを学びます。特に、身近な材料を使って自分自身で「動く仕組み」を作り出す遊びは、子供たちの探求心と創造力を強く刺激する活動です。
「動く仕組み」を作る遊びとは
ここで言う「動く仕組み」を作る遊びとは、特別な道具やキットを使うのではなく、牛乳パック、段ボール、ストロー、輪ゴム、洗濯バサミなど、身の回りにある手に入りやすい材料や廃材を使って、物が動く仕掛けや簡単な道具を作り、それを動かして遊ぶ活動を指します。
例えば、以下のような遊びが考えられます。
- ビー玉転がしコース作り: 段ボールや紙パックを組み合わせて、ビー玉が転がる坂道やトンネル、ジャンプ台など、様々な仕掛けのあるコースを作ります。
- 風で動くおもちゃ作り: 紙コップやストローで風車を作ったり、ペットボトルと車輪で風を受けて走る車を作ったりします。
- 簡単なてこや滑車のおもちゃ: 棒と積み木を使ってシーソーを作ったり、紐と段ボール箱で簡単なエレベーターのようなものを作ったりします。
- ゴムやバネを使った動くおもちゃ: 輪ゴムを動力にした車や、バネの力で飛び出すおもちゃなどを作ります。
これらの遊びは、ただ物を作るだけでなく、「どうすればビー玉が最後まで転がるか」「風で速く動かすにはどうしたらよいか」「少ない力で重いものを持ち上げるには」といった、物理的な現象や力の働きを遊びながら体感し、理解するきっかけを与えます。
この遊びが育む「好き」と学び(ねらい)
「動く仕組み」を作る遊びは、子供たちの多様な「好き」と学びを引き出します。
- 探求心と科学的なものの見方: 「なぜ動くのだろう?」「どうしたらもっとうまくいく?」という疑問から、子供は試行錯誤を繰り返します。これは自然と原因と結果を考察する科学的な思考の芽生えにつながります。重力、摩擦、風力、弾力など、様々な力の働きを体感的に学びます。
- 創造力とアイデアを形にする力: どんなコースにしようか、どうすれば動くかなと、自分の頭で考えたアイデアを具体的な形にしていきます。決まった正解がないため、自由な発想が生まれます。
- 問題解決力: 作っている途中でうまくいかないことが出てきます。「ビー玉が途中で止まってしまう」「風車が回らない」といった問題に対し、原因を考え、別の方法を試す中で、粘り強く問題に取り組む力が育まれます。
- 論理的思考力: 仕組みを作る過程で、順番や関連性を考える必要があります。「まずこれをこう置いて、次にこれをつなげよう」といった手順を考えることで、論理的に物事を組み立てる力が養われます。
- 手先の巧緻性と空間認識力: 材料を切ったり貼ったり、組み立てたりといった作業を通して、手先を器用に使う力が育ちます。また、物がどのように配置され、どのように動くかをイメージすることで、空間を認識する力が養われます。
- 集中力と根気: 一つの仕組みを完成させるには、集中して作業に取り組み、うまくいかなくても諦めずに続ける根気が必要です。遊びに夢中になる中で、自然と集中力と根気が身につきます。
- 協調性とコミュニケーション能力: 友達と一緒に一つの大きなコースを作ったり、アイデアを共有したりする中で、自分の考えを伝え、相手の意見を聞きながら協力する力が育まれます。
保育で実践する上でのポイント
- 多様な材料を用意する: 牛乳パック、トイレットペーパーの芯、段ボール、ペットボトル、ストロー、輪ゴム、紙皿、洗濯バサミ、割り箸など、様々な形の廃材や身近な材料を豊富に用意します。ハサミ、のり、セロハンテープ、ガムテープといった基本的な道具も安全に配慮して用意します。
- 正解を教えない関わり: 子供が困っている様子でも、すぐに答えや作り方を教えるのではなく、「どうしたらいいかな?」「さっきとどこが違う?」と問いかけたり、ヒントになるような別の材料を提示したりしながら、自分で考え、解決する過程を大切に見守ります。
- 試行錯誤を奨励する: 一度でうまくいかなくても、「残念だったね。次はどうしてみる?」と前向きな言葉をかけ、何度も挑戦できる雰囲気を作ります。失敗から学ぶことの重要性を子供たちが感じられるようにします。
- 安全への配慮: ハサミやカッター(保育士が使用する場合)、テープカッターなどの道具を使う際は、使い方を丁寧に伝え、保育士が見守ります。小さな部品を使用する場合は、誤飲の危険がないよう十分注意します。
- スペースと時間の確保: 材料を広げたり、作ったものを動かしたりするスペースが必要です。また、すぐに完成する遊びではないため、集中して取り組めるように、ある程度の時間を確保します。
- 集団と個のバランス: みんなで協力して大きなものを作る活動もあれば、一人で黙々と自分のアイデアを形にする子供もいます。それぞれの関わり方を尊重し、必要に応じて個別に関わったり、グループでの協力を促したりします。
- 限られた環境での工夫: スペースが限られている場合は、壁面を利用したコース作りや、テーブルの上でできるコンパクトな仕組み作りなど、場所を工夫します。予算がない場合でも、廃材を主な材料とすることで十分に楽しめる活動です。
応用例と家庭でのヒント
作った仕組みを友達と交換して動かしてみたり、他の素材(水、砂など)と組み合わせてみたりと、遊びを発展させることも可能です。
家庭で実践する際は、特別な材料を用意する必要はなく、家にある段ボールやペットボトルなどから始めることができます。「これ、何かに使えるかな?」と子供と一緒にアイデアを出し合うことから始めると、親子のコミュニケーションも深まります。子供が作ったものを動かして見せてもらう時間を持つことも、子供の自信と次への意欲につながります。
保護者への説明のポイント
この遊びが単なる「工作」ではなく、子供の様々な学びにつながることを伝えます。「ビー玉が転がる仕組みを考えることで、どうして坂道だと速くなるのか、といった理科の基礎につながること」「うまくいかなくても何度も工夫する力が、将来困難に立ち向かう力になること」など、具体的な学びの側面を伝えることで、家庭での関わりや、子供の活動への理解を深めてもらうことができます。
まとめ
身近な材料で「動く仕組み」を作る遊びは、子供たちの内側にある「知りたい」「作りたい」「動かしたい」という強い意欲を引き出し、探求心や創造力、問題解決力といった、これからの時代に必要な様々な力を育む素晴らしい機会です。保育士の皆さんが、子供たちの「わくわく学びスイッチ」を入れるためのヒントとして、この遊びをぜひ取り入れていただければ幸いです。