身近な廃材が楽器に!音作りで子供の探求心と表現力を育む:保育での実践アイデアとねらい
廃材を使った楽器作りが子供の学びを深める理由
子供たちは、身の回りの音や素材に強い興味を持ちます。「これはどんな音がするのかな?」「叩いたらどうなる?」といった素朴な疑問は、まさに探求心の芽生えです。廃材を使った楽器作りは、この子供たちの自然な好奇心を刺激し、「音」という非日常的な体験を「作る」という創造的な活動と結びつけます。
特別な材料がなくても、ペットボトル、空き箱、トイレットペーパーの芯など、普段捨ててしまうようなものが、子供たちの手にかかると世界に一つだけの楽器に生まれ変わります。このプロセスは、資源を再利用するという環境意識の入り口にもなり得ます。
保育の現場において、廃材楽器作りは単なる製作活動に留まりません。音色の違いを探求したり、友達と合奏を楽しんだりする中で、子供たちの探求心、創造性、表現力、協調性など、多様な力が育まれます。
廃材楽器作りのアイデアと実践方法
廃材で様々な音が出る楽器を作ることができます。子供たちの年齢や興味に合わせて、シンプルなものから少し複雑なものまで挑戦してみましょう。
遊びの概要と目的
身近な廃材を使って、振る、叩く、こするなど、様々な方法で音が出るオリジナルの楽器を製作し、それを使って音遊びや合奏を楽しみます。 目的は、廃材の特性と音の関係を探求すること、自由な発想で形や音を創造すること、音やリズムに合わせて体を動かし表現すること、そして友達と協力して音を重ね合わせることです。
準備するもの
- 様々な種類の廃材: ペットボトル(大小)、牛乳パック、お菓子の箱、トイレットペーパー・ラップの芯、プリンやゼリーのカップ、空き缶(切り口に注意)、段ボール、プラスチック容器、毛糸の切れ端、布、ゴム、割り箸、ストローなど。
- 音が出るもの: 小豆、ビーズ、ボタン、米、砂利、木の実、ゼムクリップ、ゴムバンドなど。
- 道具: ハサミ、カッターナイフ(保育士が使用)、セロハンテープ、ガムテープ、ボンド、ホッチキス、絵の具、クレヨン、マーカー、折り紙、シール、リボンなど。
具体的な手順(例:マラカス、太鼓、ギター)
1. マラカス(ペットボトルや空き容器を使用)
- 手順: きれいに洗って乾燥させたペットボトルや容器に、小豆、米、ビーズ、砂利など、音の違うものを少量ずつ入れます。蓋をしっかり閉めるか、テープで留めて中身が出ないようにします。油性ペンで色を塗ったり、折り紙やシールを貼って飾り付けたりします。
- ポイント: 入れるものの種類や量を変えると、音色が変わることを子供と一緒に試してみましょう。容器の素材(プラスチック、紙、金属)でも音が変わることを発見するかもしれません。
2. 太鼓(空き箱や空き缶を使用)
- 手順: お菓子の箱や缶の片面(または両面)に、丈夫な紙や布、ビニールなどを貼り付けます。ゴムバンドで固定したり、ガムテープでしっかりと貼り付けたりします。絵を描いたり、布を貼ったりして装飾します。バチは、トイレットペーパーの芯に布を巻いたものや、割り箸の先に毛糸や緩衝材をつけたものなどが安全です。
- ポイント: 叩く面やバチの素材を変えると、音色が変わることを試せます。大きな段ボール箱を使えば、複数人で叩ける大きな太鼓も作れます。
3. ギター(空き箱と輪ゴムを使用)
- 手順: ティッシュ箱などの空き箱の真ん中に穴を開けます(これが響く部分になります)。箱の両端に切り込みを入れ、そこに輪ゴムを数本張ります。輪ゴムの太さや張り具合を変えると、音の高さが変わることを体験できます。トイレットペーパーの芯などをネックに見立てて取り付けても良いでしょう。
- ポイント: 輪ゴムを指で弾いて音を出すだけでなく、弦を指で押さえる位置を変えると音が変わることを知らせると、さらに探求が深まります。
年齢別のポイントと難易度調整
- 乳児クラス(0〜2歳児):
- 自分で作るというよりは、保育士が安全なマラカスや音の出るおもちゃを用意し、触って音を出すことを楽しむ段階です。ペットボトルの蓋はしっかり閉め、中身が出ないように厳重に固定します。口に入れないよう十分に配慮が必要です。
- 廃材の感触や音色の違いを感じることを目的とします。
- 幼児クラス(3〜5歳児):
- 自分で道具(ハサミなど)を使い、廃材を切ったり貼ったりする製作活動を取り入れます。道具の安全な使い方を丁寧に伝えます。
- 「どんな楽器を作りたい?」「どんな音が出るかな?」と問いかけ、子供自身のアイデアを引き出します。
- 友達と協力して一つの楽器を作る、作った楽器で簡単な合奏をするなど、共同活動や表現活動にも繋げます。
- 5歳児頃には、どうすればもっと大きな音が出るか、違う音になるかなど、工夫する過程を促します。
限られたスペースや予算で実施するための工夫
- 廃材の収集: 保護者や地域の方に呼びかけ、製作に使えそうな廃材を集める協力を依頼します。園内で出る廃材も活用しましょう。
- 道具の共有: ハサミやテープなどは、必要な分だけ準備し、譲り合って使うように促します。
- 代替案: 高価な装飾材料を使わず、廃材そのものの色や形を生かしたり、自然物(葉っぱ、小枝など)を飾り付けに使ったりすることもできます。
集団での活動と個別の関わり方
- 集団活動:
- 大きな段ボールや複数の廃材を組み合わせて、みんなで一つの大きな楽器(例:巨大な太鼓、廃材オブジェ楽器)を作る活動は、協力する力や一体感を育みます。
- 作った楽器を持ち寄り、簡単なリズムに合わせて音を出す合奏は、音を聴き合う、タイミングを合わせるなどの社会的な関わりを促します。
- 個別の関わり:
- 子供一人ひとりの「作りたい」「試したい」というアイデアを大切にし、「どうやったらできるかな?」と一緒に考えたり、必要な手助けをしたりします。
- 特定の廃材や音に強い興味を示している子供には、その興味をさらに深めるような声かけや材料の提供を行います。
その遊びや環境が育む学びとねらい
- 探求心と科学的な思考: どんな廃材がどんな音を出すのか、どう加工すれば音が変わるのかを試行錯誤する中で、「素材と音の関係」や「原因と結果」について自然と探求します。これは科学的なものの見方の基礎を育みます。
- 創造性と表現力: どんな楽器を作るか、どう飾り付けるか、どんな音色を目指すか、作った楽器でどのように音を出し、表現するかなど、自由な発想と自己表現の機会となります。
- 五感の発達: 廃材の様々な感触、音の響き、完成した楽器の見た目などを通して、五感が刺激されます。特に「聴覚」への意識が高まります。
- 巧緻性と構成力: 廃材を切る、貼る、組み立てる、結ぶといった手先を使った作業は、巧緻性を高めます。完成形をイメージしながら素材を組み合わせることで、構成力や立体的な感覚も養われます。
- 問題解決力: 「音がうまく出ない」「思った形にならない」といった問題に直面した際に、「どうすれば良いかな?」と自分で考えたり、保育士や友達に相談したりする過程で、問題解決能力が育まれます。
- 協調性とコミュニケーション: 友達と一緒に楽器を作ったり、合奏したりする中で、自分の意見を伝えたり、相手の考えを受け入れたり、共通の目的に向かって協力したりする力が育まれます。音を通じて気持ちを伝え合うコミュニケーションも生まれます。
- 自己肯定感: 自分で考え、工夫して作った楽器で音が出せた、表現できたという成功体験は、大きな達成感と自己肯定感に繋がります。
安全に実施するための注意点
- ハサミやカッターナイフを使用する際は、必ず保育士が子供の様子を見ながら、安全な使い方を指導・補助します。乳児クラスでは保育士が行います。
- 空き缶など、切り口が鋭利になる可能性のある廃材は、使用前に切り口をテープなどで保護するか、使用を避けます。
- ビーズや小豆など、誤飲の可能性がある小さな材料を使う際は、特に乳児クラスの子供たちが口に入れないよう、十分な注意と見守りが必要です。完成した楽器はしっかり封をします。
- 絵の具やボンドなどの材料は、子供にとって安全なものを選び、換気を行いながら使用します。
応用例と保護者への説明
- 応用例:
- 作った楽器を使って「森の音楽会」「海の音」など、テーマを決めて発表会を行う。
- 絵本の読み聞かせに合わせて、楽器で効果音をつける。
- 子供たちが作った楽器を使い、オリジナルの歌やリズムを作る。
- 作った楽器にさらに工夫を加え、音色の変化を探求する発展的な活動。
- 保護者への説明:
- 園での廃材楽器作りの活動について、「身近なもので音を作る面白さを通して、子供たちの『どうして?』という探求心や、自由に表現する楽しさを育んでいます」といったねらいを伝えます。
- 「家でも簡単にできるマラカス作りなど、お子さんと一緒に身の回りの音に耳を傾けてみてください」と、家庭での関わりのヒントを提供することもできます。子供が園で作った楽器を持ち帰った際には、どんな音が出るか一緒に楽しんでみてくださいと伝えると良いでしょう。
まとめ
廃材を使った楽器作りは、子供たちが五感を使い、自ら考え、表現する機会に満ちた遊びです。身近にある「もの」が「音」を生み出す道具に変わる驚きや喜びは、子供たちの内なる「好き」を刺激し、その後の多様な学びへと繋がる大切な経験となります。保育の現場で、子供たちの創造性あふれる音作りの時間をぜひ大切にしてください。