植物を育てる遊びで子供の生命への興味と探求心を育む:保育での実践アイデアとねらい
植物を育てる遊びが子供の学びスイッチをオンにする
保育の場において、植物を育てる活動は、子供たちの心と体に多様な学びをもたらす貴重な機会となります。「わくわく学びスイッチ」のコンセプトである「子供が自ら学びたくなる『好き』を刺激する」という視点から見ても、植物の生長という目に見える変化は、子供の好奇心を強く引きつけ、主体的な探求心を育むきっかけとなります。土に触れ、水をやり、小さな芽が出るのを待ち、葉が茂り、花が咲き、時には実がなる過程を体験することは、生命の不思議さや尊さを肌で感じることにつながります。この活動を通して、子供たちはどのような学びを得られるのでしょうか。
植物を育てる遊びの概要と目的
植物を育てる遊びとは、種まきから始まり、水やりや観察、間引き、収穫など、植物の生長過程に関わる一連の活動を指します。保育環境で実施する場合、園庭の一角を利用したり、プランターや植木鉢を使ったり、室内で水耕栽培を行ったりと、場所や環境に合わせて様々な方法が考えられます。
この遊びの主な目的は、子供たちに生命の営みに触れる機会を提供し、観察力、探求心、そして植物に対する愛着や責任感を育むことです。また、自然の変化や季節の移り変わりを感じ取る感性を養い、植物が育つために必要なもの(光、水、土、空気など)への理解を深めることも重要な目的の一つです。
準備するもの
植物を育てる遊びに必要なものは、育てる植物の種類や方法によって異なりますが、基本的なものは以下の通りです。
- 育てる植物:
- 種子(アサガオ、ホウセンカ、ミニトマト、キュウリ、ラディッシュ、ハーブなど、比較的育てやすく生長が早いものがおすすめです)
- 球根(チューリップ、ヒヤシンスなど)
- 苗(イチゴ、トマト、ナス、キュウリなど)
- 豆苗やカイワレ大根など、室内で手軽に育てられるもの
- 土: 草花用培養土、野菜用培養土など。腐葉土や赤玉土を混ぜて土作りから行うことも学びになります。
- 植える容器: 植木鉢、プランター、牛乳パックやペットボトルを再利用したもの、紙コップなど。
- 水やり道具: ジョウロ、霧吹きなど。
- その他: 移植ごて(スコップ)、じょうぎ(深さを測る)、ネームプレート、記録用のノートや絵本、図鑑など。
限られた予算や環境の場合、牛乳パックやペットボトルを植木鉢として再利用したり、園庭の一角が難しければ窓際で小さなプランターや水耕栽培キットを使ったりする工夫が考えられます。
具体的な手順と方法
ここでは、プランターで種から植物を育てる基本的な手順を紹介します。
- 計画を立てる: 何の植物を育てるか、どこに置くか、誰がどんなお世話をするかなどを子供たちと一緒に話し合って決めます。図鑑を見たり、保育士が植物の特徴を紹介したりしながら、子供たちの興味を引き出しましょう。
- 土を入れる: プランターに鉢底石を敷き(任意)、その上から土を入れます。子供たちがスコップを使って土を運ぶのは楽しい活動です。土の感触を味わうことも五感を刺激します。
- 種をまく: 種の種類によってまき方が異なります(ばらまき、点まき、すじまき)。種の大きさに合わせて土に穴を開けたり、まいた後に軽く土をかけたりします。この時、「この小さな粒から大きなお花や野菜ができるんだよ」と話すと、期待感が膨らみます。
- 水やり: 優しく水をあげます。土が乾いたら水をあげる、というサイクルを教えます。子供用の小さなジョウロを用意すると、自分でやりたがる子が増えます。
- 観察する: 毎日、あるいは決まった曜日に植物の様子を観察します。「何か変わったところはあるかな?」「芽は出たかな?」と声をかけ、子供たちが変化に気づけるように促します。観察したことを絵や言葉で記録するのも良いでしょう。
- 間引き(必要な場合): 芽がたくさん出すぎた場合は、元気な芽を残して他の芽を抜きます。なぜ間引きが必要なのかを、植物が大きくなるために栄養やスペースが必要だから、と分かりやすく説明します。
- お世話を続ける: 水やり、日当たりの調整、支柱立て(必要な場合)など、植物の生長に合わせて適切なお世話を続けます。
- 収穫(必要な場合): 育てた野菜やハーブなどを収穫し、実際に食べる体験をします。自分たちが育てたものを食べる喜びは格別です。
年齢別のポイントと難易度調整
- 0〜2歳児: 土の感触や水の冷たさを感じるなど、五感を使った体験を中心にします。水やりを一緒にしたり、保育士が育てている植物を触らせたり、葉っぱの匂いを嗅がせたりします。簡単な収穫体験(例: 落ちた葉っぱを集める)も良いでしょう。安全に配慮し、口に入れないように注意が必要です。
- 3〜4歳児: 種まきや水やりなど、簡単な作業に挑戦します。植物の簡単な変化(芽が出た、葉が増えたなど)に気づき、言葉で表現するよう促します。当番制にして、責任感を少しずつ育むこともできます。
- 5歳児: より主体的に活動できるようになります。育てる植物の種類を自分で選んだり、観察日記をつけたり、植物の育ち方について図鑑で調べたりする活動も取り入れられます。グループで協力して一つの植物を育てることで、役割分担や協力する力を養います。
限られたスペースや予算での工夫
- スペース: 窓際やベランダなどの限られたスペースでも、プランターや植木鉢を使えば十分に実施可能です。縦型のプランターやハンギングバスケットを利用すると、場所を取りません。
- 予算: 牛乳パック、ペットボトル、食品トレーなどをリサイクルして植木鉢や育苗ポットとして活用します。種子は安価なものから始めたり、苗はご家庭から分けてもらったりするのも良いでしょう。土も少量から購入できます。
集団での活動と個別の関わり方
集団で大きなプランターや畑で育てる活動は、協力すること、役割分担すること、他の子の発見に耳を傾けることなど、社会性を育む機会となります。一方、一人ひとりが自分の植木鉢で小さな植物を育てる活動は、個々のペースでじっくり観察したり、特定の植物に愛着を持ったりする機会となります。
保育士は、集団活動の中で個々の子供がどのように関わっているか、どのような点に興味を持っているかを観察し、必要に応じて個別に関わることが大切です。「〇〇君は、芽が出たことに一番最初に気づいたね!すごいね」「△△ちゃんは、毎日優しくお水をあげているね」など、具体的な行動を褒めることで、子供の自己肯定感や次の活動への意欲につながります。また、集団での話し合いの場で、発言が苦手な子に「〜についてどう思う?」と優しく問いかけるなど、発言を促す工夫も重要です。
その遊びや環境が、子供のどのような「好き」を刺激し、どのような学び(「ねらい」)や力が育まれるのか
植物を育てる遊びは、子供の多様な「好き」を刺激し、様々な学びにつながります。
- 自然への興味・探求心: 植物の生長という生命の営みを目の当たりにすることで、「なぜ大きくなるの?」「お水はどこに行くの?」といった素朴な疑問が生まれ、自然の仕組みへの探求心が刺激されます。
- 観察力・集中力: 小さな変化に気づくためにじっくりと観察する過程で、自然と観察力や集中力が養われます。色、形、大きさ、手触り、匂いなど、五感を使って植物を感じ取ることで、豊かな感性が育まれます。
- 生命への畏敬の念・優しさ: 自分が関わることで植物が生長する体験を通して、生命の尊さや大切さを学びます。水やりや声かけなどのお世話をすることで、植物に対する愛着が生まれ、優しさや思いやりの心が育まれます。
- 責任感・継続力: 毎日お世話をするという経験を通して、物事に対する責任感や、目標に向かって継続する力が育まれます。「お水をあげないと枯れてしまう」という体験は、責任の重さを実感する貴重な学びとなります。
- 思考力・問題解決能力: 植物がうまく育たない時、「どうしてだろう?」「どうすれば良いかな?」と考える過程で、原因を推測し、解決策を考える思考力や問題解決能力が養われます。
- 言葉の力・表現力: 観察したことや感じたことを言葉や絵で表現する機会を通じて、語彙が増え、表現力が豊かになります。友達と話し合う中で、自分の考えを伝えたり、相手の話を聞いたりするコミュニケーション能力も育まれます。
- 科学的思考の基礎: 種まき、水やり、光合成、生長、枯れるといった一連の過程を通して、植物の生命サイクルや生態系の基礎的な仕組みを体感的に学びます。これは、後の科学学習の土台となります。
【ねらいのまとめ】 * 生命の営みに触れ、自然や植物に対する興味や愛着を育む。 * 植物の生長を観察し、変化に気づくことで観察力や探求心を養う。 * 水やりなどの世話を通して、生命を大切にする気持ちや責任感を育む。 * 五感を使って植物に関わり、豊かな感性を培う。 * 植物について友達や保育士と話し合う中で、言葉の力やコミュニケーション能力を高める。 * 植物が育つ条件を知り、自然の仕組みへの関心を深める。
安全に実施するための注意点
- 使用する道具(スコップなど)は、子供の発達段階に適した安全なものを選び、正しい使い方を教えます。
- 土や植物の種類によっては、アレルギーを引き起こす可能性のあるものもあります。事前に確認し、アレルギーのある子供への配慮や、触った後の手洗いを徹底します。
- 有毒な植物や虫に注意し、子供たちが安全に活動できる環境を整えます。
- 日差しが強い時間帯は避けたり、水分補給を促したりするなど、熱中症対策を行います。
家庭や他の場所でも応用できるヒント
植物を育てる活動は、保育園だけでなく家庭でも簡単に取り入れられます。ベランダでミニトマトを育てたり、室内でハーブや観葉植物を育てたりするだけでも、子供にとって貴重な体験となります。旅行などで家を空ける際の植物の世話をどうするかなど、家族で話し合うことも、責任感を育む良い機会になります。地域の公園や植物園などで様々な植物を観察したり、季節ごとの植物の変化に触れたりすることも、子供の自然への関心を深めます。
保護者への説明に役立つ視点や伝えるべきポイント
植物を育てる活動の教育的な価値を保護者に伝える際は、以下の点を伝えることが有効です。
- 単なる遊びではない学びがあること: この活動を通じて、子供たちが生命の大切さ、自然の不思議さ、そして自分で何かを育て上げる喜びや責任感を学んでいることを具体的に説明します。
- 家庭での協力のお願い: 週末の水やりなど、家庭でできる簡単な役割をお願いしたり、一緒に観察したりすることを勧めたりすることで、子供の学びがより深まることを伝えます。
- 子供の成長や変化の共有: 保育園での子供の具体的なエピソード(「〇〇君が芽が出たことに気づいて教えてくれたんです」「△△ちゃんが毎日欠かさずお水をあげています」など)を伝え、家庭でも植物に関心を持つ声かけをしてもらうよう促します。
- 安全面への配慮: 保育園で行っている安全管理について説明し、保護者の安心に繋げます。
まとめ
植物を育てる遊びは、子供たちの五感を刺激し、自然への興味や生命への畏敬の念、そして自己肯定感や責任感を育む、多くの学びが詰まった活動です。保育士が適切な環境を整え、子供たちの「なぜ?」「どうなるの?」という問いかけに寄り添いながら関わることで、子供たちは植物の生長を通して多くの発見や学びを得るでしょう。限られた環境でも工夫次第で十分に実践可能です。ぜひ、子供たちの「わくわく学びスイッチ」をオンにするために、植物を育てる遊びを保育に取り入れてみてください。