体を思いきり動かす遊びで空間認識力と自己肯定感を育む:保育での実践アイデアとねらい
体を動かす遊びが育む子供の力
子供たちは体を動かすことを通して、様々なことを学びます。単に運動能力が向上するだけでなく、自分の体がどのくらいの大きさで、どのように動かせるのかを知る「空間認識力」や、「できた!」という成功体験を積み重ねることで得られる「自己肯定感」など、心と体の両面の成長に欠かせない要素が育まれます。
特に保育の現場においては、子供たちが安心して体を動かせる環境を整え、遊びを通してこれらの力を自然に育んでいくことが重要です。限られたスペースや身近な素材を活用しながら、子供たちの「やりたい!」という気持ちを引き出し、主体的な動きや挑戦を促すための遊びのアイデアと、そこに隠されたねらいについてご紹介します。
遊びのアイデアと実践方法
ここでは、特別で高価な道具を使わずとも実践できる、体を動かす遊びのアイデアをいくつかご紹介します。
1. サーキット遊びアレンジ
マットや段ボール、クッション、椅子、トンネルなど、保育室にある身近なものを組み合わせ、様々な体の動きを取り入れたコースを作ります。
- 遊びの概要・目的: 様々な動き(くぐる、またぐ、登る、降りる、バランスをとる、回るなど)を連続して行うことで、多様な体の使い方を経験し、空間認識力や体の調整力を養います。
- 準備するもの: マット、段ボール(トンネルや坂道に加工)、クッション、椅子、フープ、バランスボール(あれば)、紐、積み木やブロックなど。
- 具体的な手順:
- 安全なスペースを確保し、子供たちの年齢や発達段階に合わせてコースをデザインします。
- マットで坂道や山を作る、段ボールでトンネルを作る、椅子と紐で低いハードルを作る、フープを並べて飛び石にするなど、複数の要素を組み合わせます。
- コースの順番やルール(例: 「くぐったら次はジャンプ」)を子供たちに説明します。
- 保育士は見守りながら、必要に応じて声かけや手助けを行います。
- 年齢別のポイント:
- 乳児: はいはいやずりばいで進める低い障害物、つかまり立ちで越えられる程度の低い段差などを中心に。安全な素材を使い、保育士のサポートを手厚く行います。
- 幼児: より複雑な動き(両足ジャンプ、片足バランス、指定された場所への着地など)を取り入れ、少し高さのある場所からの飛び降りなども安全に配慮して設定します。コースを子供たちと一緒に考えるのも良いでしょう。
- 限られたスペースでの工夫: 部屋の端や壁際を活用し、縦の動き(登る、降りる)を取り入れる。一つの道具で複数の役割を持たせる(例: マットを丸めてトンネルにも山にも使う)。コースを短く区切り、順番交代の頻度を上げる。
- 集団と個のバランス: みんなで順番に挑戦するルールにする。または、いくつかコーナーを設け、子供が好きな場所で自由に遊べるようにする。
2. 体を使った模倣(表現)遊び
動物の動きや乗り物、自然現象などを体で表現する遊びです。
- 遊びの概要・目的: 見たり聞いたりしたものをイメージし、自分の体をどのように動かせばそれを再現できるかを考えることで、創造力、表現力、そして体の使い方への意識を高めます。
- 準備するもの: 特に必要ありませんが、テーマに関連する絵本や写真、鳴き声などの音源があると、よりイメージが膨らみます。
- 具体的な手順:
- テーマ(例: 「動物園の動物」「空を飛ぶもの」)を決め、関連する絵本や図鑑を見て、動きを観察します。
- 「ゾウさんはどんな動きかな?」「新幹線みたいに早く動いてみよう!」などと声かけをし、子供たちが自由に体を動かせる時間を設けます。
- 子供たちの動きを肯定的に捉え、「わあ、本当に鳥さんみたいに飛んでいるね!」「カメさんみたいにゆっくりだね」と具体的に言葉で返します。
- 友達の動きを真似したり、一緒に同じ動物になってみたりするよう促すこともできます。
- ねらいと期待される効果:
- 空間認識力: 自分の体が空間でどのように動いているか、どのような形になっているかを意識します。
- 自己肯定感: 自由に表現することの楽しさを知り、自分の体を使い表現できた喜びを感じます。
- 創造力・表現力: イメージを体で具現化しようと工夫します。
- 観察力: 対象の動きをよく観察し、再現しようとします。
- 安全に実施するための注意点: 動き回るスペースを十分に確保する。衝突しないよう子供たちの間隔に注意する。無理な体勢にならないよう配慮する。
遊びのねらいと育まれる力
これらの体を動かす遊びには、以下のようなねらいと学びがあります。
- 空間認識力の発達:
- 自分の体の位置や動きが、周囲の空間や物との関係でどうなっているかを感覚的に理解します。コースを通り抜ける、障害物を避ける、バランスを取るといった経験を通して、「ここを通れる」「このくらいのスピードで動けばぶつからない」といった判断力が養われます。
- 自己肯定感の向上:
- 「できた!」「最後までできた!」という達成感が、自分への信頼感につながります。特に、少し難しいと感じる動きに挑戦し、成功した時の喜びは、子供の自己肯定感を大きく育みます。失敗しても大丈夫であることを伝え、再挑戦を応援することで、諦めずに取り組む粘り強さも育まれます。
- 身体能力の向上:
- 多様な動きを経験することで、筋力、バランス感覚、敏捷性、協応性(体の各部分を協調させて動かす能力)など、運動能力の基礎が養われます。
- 危険予測と回避能力:
- 体を動かす中で、何が危ないか、どうすれば安全かを学びます。転ばないように足元に注意する、高い場所から降りる時は手を使うなど、自分の身を守るための判断力が育まれます。
- 集団の中でのルール理解と協調性:
- サーキット遊びで順番を待つ、友達の応援をする、場所を譲り合うといった経験を通して、集団生活におけるルールや友達と協力することの大切さを学びます。
実践上のポイントと応用
- 子供の興味を引くテーマ設定: ただコースを作るだけでなく、「ジャングル探検」「宇宙旅行」「動物になって大移動」など、子供たちが想像力を働かせられるようなテーマを設定すると、遊びへの意欲が高まります。
- 素材の多様性: 様々な触感や硬さ、形の素材(マット、段ボール、布、ビニール、木材など)を使うことで、感覚統合にもつながります。
- 難易度の調整: 同じコースでも、月齢や個々の子供の能力に合わせて、保育士が手助けしたり、少し簡単な道を用意したり、逆に難しいチャレンジコーナーを設けたりすることで、誰もが楽しめるように工夫できます。
- 活動前の準備体操: 安全のため、遊びを始める前に簡単な準備体操を取り入れることが大切です。
保護者への説明に役立つ視点
体を動かす遊びが子供の成長に不可欠であることを、保護者の方にも分かりやすく伝えることが大切です。
- 単なる体力づくりではなく、脳の発達や心の成長にも深く関わっていること(空間認識力、思考力、自己肯定感など)。
- 特別な道具がなくても、家庭にあるクッションやタオルケット、椅子などを使って簡単なサーキット遊びができること。
- 公園での遊具遊びだけでなく、広い場所で思いっきり走る、坂道を登り降りするといった日常的な体の動きも大切であること。
- 子供が新しい動きに挑戦したとき、結果だけでなく、挑戦したこと自体を褒めることの重要性。
体を動かす遊びは、子供たちが自分の体を知り、自信を持って世界を探索するための基礎を築きます。保育士の皆様の温かい見守りと工夫によって、子供たちは遊びを通して健やかに成長していくことでしょう。