「香りのふしぎ」を探求!子供の嗅覚、感性、探求心を育む遊び:保育での実践アイデアとねらい
子供の「好き」を引き出す香りの探求
子供たちは五感を通して世界を認識し、様々なことを学んでいきます。視覚や聴覚に比べるとあまり意識されないかもしれませんが、嗅覚もまた、子供たちの探求心や感性を刺激する重要な感覚です。身近な「香り」を使った遊びは、子供たちの「これはどんな匂いかな?」「なぜこんな匂いがするんだろう?」という疑問を引き出し、豊かな学びにつながります。ここでは、保育現場で実践できる香りの遊びのアイデアと、それによって育まれる子供たちの力についてご紹介します。
香りの遊びの具体的なアイデア
香りを使った遊びは、特別な材料を使わなくても、身近にあるものから始めることができます。
1. 自然の香りをさがそう!
園庭や散歩先で、様々な植物や土の香りを意識してみる活動です。 * 遊びの概要と目的: 自然の中にある多様な香りに気づき、嗅覚を刺激すること。香りを通して自然への関心を高めること。 * 準備するもの: 香りを集めるための小さな容器(ヨーグルトの空き容器など)、虫めがね(あれば)。 * 具体的な手順: 1. 散歩に出かける前や園庭に出る際に、「今日はどんな匂いがするか、鼻をくんくんさせてみよう!」と子供たちに働きかけます。 2. 葉っぱ、花びら、木の幹、土、雨上がりの地面など、様々なものに鼻を近づけて匂いをかいでみます。 3. 「この葉っぱはどんな匂いがする?」「この花は甘い匂いだね」など、感じた香りを言葉にしてみるように促します。 4. 気に入った香りがあれば、容器に入れて持ち帰ることもできます(安全なもの、許可された場所に限る)。 * 年齢別のポイント: * 乳児クラス: 抱っこしながら一緒に匂いをかぐ。「いい匂いね」「くさーい」など簡単な言葉で表現を楽しむ。 * 幼児クラス: 自分で匂いをかぎ分け、言葉で表現する。いくつかの香りを集めて「一番好きな匂いはどれ?」といった比較を楽しむ。 * 限られた環境での工夫: 園庭がなくても、プランターのハーブや草花、切り花などを用意する。雨の日には、濡れた土の匂いや雨そのものの匂いに耳を澄ませることもできます。 * 集団と個の関わり: 集団で「何の匂いがするかな?」と問いかけ合い、発見を共有する。一方で、一人ひとりがじっくりと匂いと向き合う時間も大切にします。 * 安全上の注意点: 口に入れてはいけないもの、毒性のある植物、刺激の強いものには触れさせない、近づかせない。アレルギーの可能性のある植物は避ける。
2. スパイスやハーブで香り袋づくり
乾燥したスパイスやハーブを使って、オリジナルの香り袋を作る活動です。 * 遊びの概要と目的: 普段料理に使われるスパイスやハーブの香りに触れ、嗅覚と手先の活動を組み合わせること。 * 準備するもの: 数種類の乾燥スパイス(シナモン、クローブ、スターアニスなど)、乾燥ハーブ(ミント、ラベンダー、ローズマリーなど)、お茶パックまたは小さな布袋、スプーン。 * 具体的な手順: 1. 数種類のスパイスやハーブを用意し、子供たちが匂いをかいでみます。「これはカレーの匂いだね」「いい香りがするね」など、匂いについて話します。 2. 好きないくつかの香りを選ばせ、お茶パックや布袋にスプーンで詰めます。 3. 袋の口をしっかりと閉じれば完成です。 * 年齢別のポイント: * 3歳児クラス: スパイスやハーブの匂いをかいで違いを感じる。スプーンで詰める際に大人が手伝う。 * 4・5歳児クラス: 自分で好きな香りを組み合わせて詰める。袋の口を閉じる作業も自分で行う。 * 限られた環境での工夫: 少量のスパイスやお茶パックは安価に入手できます。種類を少なくしても楽しめます。 * 集団と個の関わり: 集団で匂いをかぎ比べて感想を言い合う。製作自体は個々で行い、集中して取り組む時間を設けます。 * 安全上の注意点: アレルギーがある子供はいないか事前に確認する。スパイスやハーブを口に入れないよう十分に注意し、必ず大人が見守る。誤飲の危険がある細かいものは避けるか、目が離せない場合は行わない。
3. 香りつきの素材であそぼう
食用色素と安全な香料(バニラエッセンス、ココアパウダーなど)を使い、香りつきの絵の具や粘土を作って遊びます。 * 遊びの概要と目的: 視覚や触覚だけでなく、嗅覚も使って造形活動を楽しむこと。様々な感覚を統合して表現する面白さを知ること。 * 準備するもの: 絵の具の材料(水溶き片栗粉、小麦粉など)または小麦粉粘土の材料、食用色素、バニラエッセンス、ココアパウダー、抹茶パウダーなど安全で香りのあるもの。 * 具体的な手順: 1. 基本的な絵の具や粘土の材料を用意し、色をつける際に香りの材料も混ぜます。 2. 例えば、小麦粉粘土にココアパウダーを混ぜればチョコレートの香り、食用色素で黄色にしてバニラエッセンスを数滴加えればカスタードのような香りの粘土ができます。 3. 作った香りつきの素材で自由に造形や絵を描いて楽しみます。 * 安全上の注意点: 使用する香料は必ず安全なもの(食用レベル)に限る。口にしないように伝えるが、万が一の場合も安全な材料で作る。アレルギーのある子供には配慮する。
香りの遊びが育む「ねらい」と子供たちの力
香りの遊びを通して、子供たちは様々な学びや育ちを経験します。
- 嗅覚の発達と感覚の統合: 様々な香りをかぎ分けることで、嗅覚が刺激され発達します。また、他の感覚(視覚で色や形を見る、触覚で素材の感触を感じる)と組み合わせることで、五感を統合的に使う力が育まれます。
- 探求心と科学的好奇心: 「この匂いはどこからくるんだろう?」「どうして匂いが違うのかな?」といった疑問が生まれ、身の回りの現象に興味を持つきっかけになります。
- 感性と創造性: 良い香り、嫌な香り、懐かしい香りなど、様々な香りに対する感覚が磨かれます。香りからイメージを広げたり、香りを組み合わせて新しいものを作り出したりする創造性が育まれます。
- 言葉の発達と表現力: 感じた香りを言葉で表現しようとすることで、語彙が増え、自分の感覚を伝える力が養われます。「甘い」「すっぱい」「さわやか」「くさい」「懐かしい匂い」など、様々な形容詞を使う練習にもなります。
- 記憶と感情の豊かさ: 香りは記憶や感情と強く結びついています。特定の香りが楽しかった体験や安心した気持ちと結びつき、豊かな情操を育みます。
- リラクゼーションと心の安定: ラベンダーやカモミールなど、心地よい香りにはリラックス効果があると言われています。遊びの中に穏やかな香りを取り入れることで、子供たちが落ち着いて活動できる環境づくりにもつながります。
実践上のポイントと安全への配慮
香りの遊びを行う上で、いくつか注意したい点があります。
- アレルギーへの配慮: 特定の植物やスパイスにアレルギーを持つ子供もいます。事前に保護者に確認し、使用する素材に十分注意が必要です。
- 誤飲・誤食の防止: 特にスパイスやハーブ、香りつきの素材は、見た目や香りが食品と似ているため、子供が誤って口に入れないよう、活動中は必ず大人が見守ります。使用する材料は安全なものを選びます。
- 無理強いしない: 香りの感じ方には個人差があります。特定の香りを「いい香りだよ」と押し付けたり、嫌がる子供に無理に匂いをかがせたりすることは避けてください。子供の反応を見ながら、心地よく参加できる範囲で行います。
- 換気: 強い香りの素材を使う場合は、適度に換気を行い、匂いがこもらないように配慮します。
- 環境への配慮: 自然の植物を採取する場合は、持ち主の許可を得たり、必要以上に採取しないなど、自然環境への配慮も大切です。
限られた環境での工夫と集団・個の関わり
大規模な準備が難しくても、香りの遊びは様々な方法で取り入れられます。 身近な食材(柑橘類の皮、コーヒー豆、乾燥椎茸、かつお節など)の匂いをかぎ比べるだけでも十分な活動になります。給食やおやつに出てくる食材の香りを意識するのも良いでしょう。 集団で活動する際は、「この匂いは何の匂いかな?みんなで考えてみよう!」のように、発見や感想を共有する時間を設けます。個別の関わりとしては、特定の香りに強い興味を示す子供に寄り添い、その香りについて一緒に調べたり、関連する絵本を読んだりすることで、「好き」をさらに掘り下げるサポートができます。
保護者への説明に役立つ視点
香りの遊びについて保護者に伝える際は、嗅覚が子供の成長にとって大切であること、香りが記憶や感情と結びつくことで豊かな感性を育むこと、身近なものから探求心が生まれることなどを話すと良いでしょう。「お家でも、ご飯の匂いをかいでみたり、お風呂にアロマを垂らしてみたり(子供向けで安全なもの)、一緒に香りを意識してみてください」など、家庭での応用のヒントを伝えることも、子供の学びを深める手助けになります。
まとめ
香りの遊びは、子供たちの嗅覚を刺激し、探求心、感性、言葉の発達など、様々な側面の成長を促す可能性を秘めています。特別な道具や場所がなくても、身近な自然や食材を使って気軽に始められるのが魅力です。安全に十分配慮しながら、子供たちが五感を使って世界を広げていくための豊かな香りの体験を提供してみてください。