『見る・聞く・さわる』を記録!子供の観察力と学びに向かう力を育む遊び:保育での実践アイデアとねらい
子供たちは日々の生活の中で、様々な発見をしています。「見て!」「聞いて!」「これ、さわってみて!」と、五感をフルに使って周りの世界を探求しています。これらの瞬間的な発見を、形として残す「記録する」という遊びは、子供たちの探求をさらに深め、学びに向かう力を育む上で非常に有効な手段となります。
記録する遊びは、単に情報を書き写すことだけではありません。子供が五感で捉えた情報の中から「おもしろい」「不思議だな」と感じたことを選び取り、どのように表現するかを考え、形にするプロセスそのものが学びとなります。これにより、観察力や思考力が育まれ、自分の発見を表現する喜びを知ることで自己肯定感にも繋がります。また、後から自分の記録を振り返ることで、学びを定着させ、新たな発見への意欲を高めることができます。
記録する遊びの概要と目的
記録する遊びとは、子供が身の回りの出来事や発見、感じたことなどを、様々な方法でアウトプットし、残していく活動です。絵を描く、写真を撮る、言葉で話す(保育者が代筆)、録音する、粘土で形にするなど、記録の媒体は多岐にわたります。
この遊びの目的は、子供たちの以下の力を育むことにあります。
- 観察力と五感の活性化: 対象をよく見て、触って、聞いて、匂いを嗅ぐなど、五感を研ぎ澄ませて情報を取り込む力を養います。
- 思考力と構成力: 集めた情報の中から重要なものを選び、どのように記録するか(どんな絵を描くか、何という言葉を選ぶかなど)を考えるプロセスで思考力が育まれます。
- 表現力と自己肯定感: 自分の内にあるイメージや発見を形にすることで、表現する楽しさを知り、それが認められることで自己肯定感が高まります。
- 記憶力と振り返りの力: 記録したものを後から見返すことで、過去の体験を思い出し、学びを定着させたり、新たな気づきを得たりします。
- 学びに向かう力: 記録という目標に向かって集中したり、粘り強く取り組んだりすることで、主体性や探求心が育まれます。
- コミュニケーション能力: 自分の記録を友達や保育者に見せ、説明したり質問に答えたりする中で、言葉によるやり取りが促進されます。
具体的な遊びのアイデア
限られた環境や予算の中でも工夫次第で実践できる、記録する遊びのアイデアを紹介します。
1. 自然発見ノート
- 概要・目的: 散歩や園庭遊びで見つけた自然物(葉っぱ、小石、木の実、虫など)を観察し、絵や言葉、または実物を貼り付けて記録する活動です。自然への興味関心を深め、細部まで観察する力を養います。
- 準備するもの: ノート(自由帳、スケッチブックなど)、クレヨン、色鉛筆、ペン、のり、テープ。
- 具体的な手順・方法:
- 散歩や園庭で、子供たちが「面白いな」「不思議だな」と感じた自然物を自由に見つけさせます。
- 保育室に戻ったり、その場に座り込んだりして、見つけたものを観察します。
- ノートに、見つけたものの絵を描いたり、特徴を言葉で書いたりします(文字が書けない子供には保育者が代筆します)。
- 落ち葉や小さな枝などは、許可された場所で採取し、ノートに貼り付けても良いでしょう。
- 日付や場所、その時の気持ちなどを書き添えると、後で見返したときに楽しめます。
- 年齢別のポイント:
- 乳児(0-2歳児):保育者が子供の指さしや視線を言葉にし、「〇〇ちゃんが見つけた葉っぱだね。ギザギザしてるね」と言いながら写真に撮り、簡単なアルバムにするなど、保育者が記録役を担います。
- 幼児(3-5歳児):自分で絵を描くことを促します。「どんな色だった?」「どんな形?」と具体的に問いかけ、観察を深めます。文字に興味が出てきたら、見つけたものの名前や簡単な感想を自分で書くことに挑戦しても良いでしょう。
- 限られた環境での工夫: 高価なノートではなく、不要になったカレンダーの裏や、使い終わったノートの余白を活用できます。園庭がない場合は、プランターの植物や、保育室に持ち込んだ自然物でも行えます。
- 集団と個の関わり: 集団で散歩に出かけ、それぞれが見つけたものを記録する時間を設けます。記録後、お互いのノートを見せ合い、発見を共有する時間を持つことも学びになります。個々の子供が自分のペースで記録できる時間を大切にします。
- ねらい: 観察力、表現力、自然への興味、思考力、学びに向かう力、自己肯定感。
- 安全に実施するための注意点: 危険な生き物や植物には触れないように注意します。採取する場所のルールを確認します。
- 応用例: 特定のテーマ(「赤いもの」「丸いもの」など)を決めて記録する、季節ごとに変化する同じ場所の様子を長期的に記録するなど。
- 保護者への説明: 「園で自然発見ノートを作っています。子供たちが自分で見つけた面白いものを記録することで、身の回りのものに興味を持ち、よく見る力が育ちます。ぜひお家でも、お子さんが何か発見したときに『すごいね!どんな色?』などと声をかけてみてください」などと伝えます。
2. 「おもしろい音」コレクション
- 概要・目的: 身の回りにある様々な音に意識を向け、その音を記録することで、聴覚を刺激し、集中力や音への感性を育む遊びです。
- 準備するもの: ICレコーダーまたは録音機能付きのタブレット・スマートフォン。
- 具体的な手順・方法:
- 静かな環境で目を閉じ、聞こえてくる音に耳を澄ませる時間を持ってみます。
- 園庭や散歩中など、様々な場所で聞こえてくる音に意識を向けます。
- 子供が「これ、面白い音!」「何の音?」と興味を示した音を録音します。
- 保育者が「どんな音かな?」「どうしてそう思った?」などと問いかけ、子供の言葉を記録します(または子供自身に録音後、その音について話してもらう)。
- 集めた音をみんなで聞いて、「これは何の音だろう?」「どんな気持ちになる音?」などと話し合います。
- 年齢別のポイント:
- 乳児:様々な音を聞かせ、「何の音かな?」「心地よい音だね」などと保育者が言葉を添えます。録音した音を一緒に聞くことを楽しみます。
- 幼児:自分で録音ボタンを押すことに挑戦したり、音源を探す活動をしたりします。録音した音について、自分の言葉で説明することを促します。
- 限られた環境での工夫: 特別な機材がなくても、保育者のスマートフォンで簡単に録音できます。
- 集団と個の関わり: 集団で音探しの活動をし、録音した音をみんなで共有します。一人ひとりが静かに耳を澄ませる時間も大切にします。
- ねらい: 聴覚の発達、集中力、感性、探求心、表現力、コミュニケーション能力。
- 安全に実施するための注意点: 録音機器の扱い方を丁寧に教えます。大声を出したり、急に大きな音を立てたりしないように注意します。
- 応用例: 特定のテーマ(「水の音」「電車の音」など)を集める、自分で楽器を作って音を録音するなど。
- 保護者への説明: 「園では、身の回りの音に耳を澄ませる遊びをしています。様々な音を聞き分けることで、集中力や感受性が豊かになります。お家でも、雨の音や風の音など、お子さんと一緒に耳を澄ませてみてください」などと伝えます。
3. 「作ったもの」ギャラリー&図鑑
- 概要・目的: 制作活動で作ったものを写真や絵で記録し、見返すことで、自分の表現を認め、達成感を得るとともに、材料や作り方を振り返り、次の制作への意欲につなげる遊びです。
- 準備するもの: カメラまたは撮影機能付きタブレット・スマートフォン、写真用紙またはノート、ペン、のり。
- 具体的な手順・方法:
- 子供たちが制作活動で何かを完成させたら、作品を写真に撮ります。
- 写真を見ながら、子供に作品の工夫した点や、使った材料、タイトルなどを話してもらいます。
- 写真と子供の言葉を一緒に、アルバムやノートにまとめます。文字が書けない子供の言葉は保育者が代筆します。
- 作品の絵を自分で描いて記録するのも良いでしょう。
- 完成した「ギャラリー」や「図鑑」は、保育室に置いて子供たちが自由に見られるようにします。
- 年齢別のポイント:
- 乳児:保育者が作品の写真を撮り、「〇〇ちゃんが作ったまるまるだね、かわいいね」などと声をかけながら、簡単な写真集にします。
- 幼児:自分で写真を撮ることに挑戦したり、作品の絵を描いたりします。使った材料や作り方を振り返る質問に答えたり、自分で言葉を添えたりすることを促します。
- 限られた環境での工夫: プリントアウトせず、タブレットやPC上でデジタルアルバムとして管理することも可能です。壁面の一部に写真を貼るだけの簡易ギャラリーでも良いでしょう。
- 集団と個の関わり: 個々の作品を記録しつつ、みんなの作品を一緒に見る時間を持ち、感想を言い合ったりします。テーマ制作の場合は、みんなの作品を図鑑形式でまとめるのも面白いです。
- ねらい: 達成感、自己肯定感、創造性、思考力(振り返り)、表現力、コミュニケーション能力。
- 安全に実施するための注意点: 撮影機器の安全な扱い方を教えます。
- 応用例: 特定の材料(廃材、自然物など)で作ったものだけを集めた図鑑にする、グループで作った共同制作の記録など。
- 保護者への説明: 「園で作ったものを記録に残しています。自分の作品を写真で見返したり、友達と見せ合ったりすることで、達成感を感じ、『また作りたい!』という気持ちが高まります。ぜひお家でも、お子さんが何か作ったときには褒めてあげたり、一緒に写真に撮ったりしてみてください」などと伝えます。
記録する遊びのねらいと期待される効果まとめ
これらの記録する遊びは、子供たちの「好き」という気持ちを入り口に、多角的な学びを引き出します。特定のテーマに沿って記録を続けることで、対象への関心は深まり、継続的に探求する力が育まれます。また、自分の発見や考えを様々な方法で表現することで、自己肯定感が高まり、学びへの意欲へと繋がります。
実践上のポイントと工夫
- 記録ツールの選択: 子供の発達段階や興味に合わせて、使いやすいツールを選びましょう。絵が好きな子にはスケッチブック、写真を撮るのが好きな子には古いカメラ(壊れても良いもの)、言葉で表現するのが得意な子には小さなノートとペンなど。
- 記録する機会: 決まった時間を設けるのも良いですし、活動中に子供が興味を示した時にすぐに記録できる環境を整えることも大切です。
- 保育者の関わり: 子供の記録を頭ごなしに評価せず、「どんなことを発見したの?」「どんな気持ち?」と寄り添い、子供の発見や表現を言葉で肯定的に受け止め、価値付けを行います。文字や絵の技術よりも、子供の「残したい」という気持ちや、記録しようとするプロセスを大切にします。
- 見返す機会を作る: 記録は、残すことだけでなく、後から見返すことで意味が深まります。定期的に記録を見返す時間を設け、発見の共有を促したり、過去の自分と今の自分を比較したりする機会を作ります。
- 限られた予算・スペースでの工夫: 既製品にこだわらず、廃材や身近なもので代用できるツールを考えます。壁面や棚の一部を記録コーナーとして活用するなど、既存のスペースを工夫して使います。
保護者への説明に役立つ視点
家庭でも子供の記録活動をサポートしてもらえるよう、保護者にこの遊びの意義を伝えることが有効です。「子供は素晴らしい発見をたくさんしています。その発見を絵や言葉で記録することで、考える力や表現する力が育まれます。お家でも、今日の楽しかったことや、何か見つけたものを絵に描いてみようか、と声をかけてみてください。完成したら『すごいね!これは何?』と一緒に見て話を聞いてあげてください。子供は自分の『好き』を認められることで、もっと学びたい気持ちになります。」などと、具体的にどのような力が育つか、家庭でどう関われるかを伝えると良いでしょう。
まとめ
「記録する」という遊びは、子供たちが五感で捉えた世界を、自分のフィルターを通してアウトプットする創造的な活動です。この活動を通して、子供たちは観察力、思考力、表現力といった多角的な力を育み、自ら学びに向かう姿勢を身につけていきます。保育の日常の中に「記録する」という視点を取り入れ、子供たちの「すごい発見!」を形として残すサポートをすることで、一人ひとりの「好き」を刺激し、主体的な学びへと繋げていくことができるでしょう。