身近な「変化」を記録する遊びで育む子供の観察力と探求心:保育での実践アイデアとねらい
はじめに
子供たちの周りには、毎日様々な「変化」が起こっています。植物が芽を出し、葉を茂らせ、枯れていく。氷が溶けて水になる。混ぜ合わせた色が変化する。季節によって空の色や気温が変わる。これらの変化は、子供たちの探求心や観察力を刺激する絶好の機会となります。
この変化に気づき、興味を持ち、さらに「記録」という行為を加えることで、子供たちの学びはより深まります。本記事では、身近な「変化」に焦点を当て、それを記録して楽しむ遊びを通して、子供たちの観察力や探求心を育む具体的な実践アイデアと、保育におけるねらいをご紹介します。
「変化を記録する遊び」とは?
「変化を記録する遊び」とは、身の回りで起こる様々な変化に子供たちが気付き、それを自分たちの言葉や絵、写真、その他様々な方法で表現・保存していく活動です。単に変化を見るだけでなく、「いつ」「どのように」変わったのかを記録することで、継続的に物事に関心を持ち、観察する力、そしてその変化の背景にある仕組みや理由への興味を育みます。
この遊びは、特別な道具や場所を必要としません。日々の保育活動や散歩、戸外遊びの中で、自然に発生する変化をきっかけに始めることができます。
具体的な遊びのアイデア
ここでは、保育の現場で実践できる「変化を記録する遊び」の具体的なアイデアをいくつかご紹介します。
1. 植物の成長を追う「ちっちゃな命の記録」
- 遊びの概要と目的: プランターや畑で育てている植物(ミニトマト、アサガオ、枝豆など)の成長の様子を定期的に観察し、記録します。
- 準備するもの: 育てたい植物の種や苗、プランターまたは畑、土、水、記録用のノート(自由帳など)、描画材料(クレヨン、絵の具、色鉛筆など)、必要に応じてカメラやタブレット。
- 具体的な手順:
- 植物の種類を選び、植える場所を決めます。子供たちと一緒に種まきや苗植えを行います。
- 記録用のノートを用意します。表紙を子供たちと一緒に飾り付けたり、植物の名前を書いたりします。
- 週に一度など、記録する日を決めます。
- 決めた日に、植物の様子をじっくり観察します。「前は葉っぱが3枚だったけど、今日は5枚になっているね」「背が高くなったかな?」など、保育士が声かけをしながら、子供たちが気付いたことを促します。
- 子供たちは見たものを絵に描いたり、保育士に言葉で伝え、書いてもらったりします。写真や短い動画で記録するのも良い方法です。
- 記録するたびに、日付を書き加えます。記録が溜まってくると、植物がどのように変化してきたのかを見返すことができます。
- 年齢別のポイント:
- 乳児: 葉っぱの感触、匂い、色の変化など、五感を使った観察を促します。絵を描くのは難しいですが、手形をつけたり、保育士が描く様子を見せたりします。
- 幼児(3歳児クラス): 見たものを簡単な絵で表現します。保育士が「葉っぱが大きくなったね」などの言葉を添えて、記録をサポートします。
- 幼児(4・5歳児クラス): 細かい部分まで観察し、絵で表現しようとします。保育士が気付きを言葉にする手助けをしたり、簡単な文字でメモを書き加えたりすることを促します。
- 限られたスペースでの工夫: ミニプランターやペットボトルを活用して、窓際などの小さなスペースでも実施できます。
- 集団と個のバランス: 集団で一つの植物を観察する時間を持ちつつ、個別のノートで自由に記録する時間を設けることで、集団での共通理解と個々の表現を両立できます。
- 安全に実施するための注意点: 毒性のある植物やアレルギーを引き起こす可能性のある植物は避けます。屋外で実施する場合は、虫刺されや熱中症に注意します。
2. 身近なものの「状態変化」を記録する遊び
- 遊びの概要と目的: 氷が溶ける、水が蒸発する、ゼラチンが固まるなど、身近な物質の形や状態が変わる様子を観察し、記録します。
- 準備するもの: 氷、水、器、ゼラチンまたは寒天、お湯、記録用の紙やノート、描画材料、タイマー(必要に応じて)。
- 具体的な手順:
- 氷を器に入れ、「これは何?」「触るとどんな感じ?」などと声をかけます。
- 時間が経つにつれて氷が小さくなり、水になっていく様子を観察します。「どうして小さくなったのかな?」「どこへ行っちゃったのかな?」と問いかけます。
- 子供たちは観察した様子を絵や言葉で記録します。「最初はカクカクしていたけど、だんだん丸くなった」「水になった」など、気付いたことを表現します。
- ゼラチンや寒天を使い、液体が冷えて固まる様子を観察し、記録する遊びもできます。
- 水を入れた器を日当たりの良い場所に置き、水が減っていく様子を観察し、記録することも可能です。
- ねらい:
- 物質の状態が変化することへの興味関心を育みます。
- 観察対象の変化を注意深く捉える力を養います。
- 変化の前後を比較し、時間の経過とともに起こる現象を理解する助けとなります。
- 絵や言葉で自分の気付きを表現する力を育みます。
- 科学的な現象への素朴な探求心を刺激します。
- 保護者への説明に役立つ視点: 家庭でも、料理をする際にお湯が沸騰する様子や、ジュースを凍らせる様子など、身近な「変化」に一緒に注目してみることを提案できます。
この遊びで育まれる「好き」と学び(ねらい)
「変化を記録する遊び」は、子供たちの様々な「好き」を刺激し、多くの学びを育みます。
- 「知る」「調べる」が好きになる:
- 観察を通して、これまで見過ごしていた身近な現象に気付く喜びを味わいます。「なんでこうなるんだろう?」という自然な疑問が生まれ、知的好奇心や探求心が刺激されます。
- 記録を見返すことで、変化の過程や規則性に気付き、「もっと知りたい」という意欲につながります。図鑑で調べたり、保育士に質問したりするきっかけにもなります。
- 「表現する」「伝える」が好きになる:
- 見たもの、感じたことを絵や言葉、写真などで表現する機会を通じて、表現力が養われます。自分の気付きを記録として残すことで、達成感や自己肯定感につながります。
- 「続ける」「やり遂げる」が好きになる:
- 記録を継続することで、根気強さや集中力が育まれます。一つのテーマにじっくり取り組むことで、物事を継続する大切さを学びます。
- 「予測する」「考える」力が育まれる:
- 「次はどうなるかな?」と予測しながら観察する習慣がつき、論理的思考力や推測する力が育まれます。
- 観察力の向上:
- 特定の対象の小さな変化に注意を向け、細部まで観察する力が養われます。
- 時間や因果関係への理解:
- 記録に日付を入れることで、時間とともに変化が起こること、そしてその変化には原因があること(例:温かいから氷が溶ける)を感覚的に理解する助けとなります。
- 学びに向かう力の育成:
- 自ら気付き、考え、表現し、継続するという一連のプロセスは、生涯にわたって学び続けるための基礎となる力を育みます。
実践上のポイントと工夫
- 記録方法の多様化: 子供の年齢や興味に合わせて、絵、写真、言葉、スタンプ、粘土で形作るなど、様々な方法で記録できるように準備します。
- 記録ツールの準備: 観察場所の近くに、記録用のノートや筆記用具、カメラなどをすぐに使えるように置いておくと、子供たちが気付いた時にすぐに記録活動に移れます。
- 継続できる環境づくり: 定期的に観察・記録する時間を設ける、記録場所を分かりやすくする、子供たちがいつでも見返せるように壁に掲示するなど、継続しやすい環境を整えます。
- 気付きを引き出す声かけ: 「何か変わったことを見つけたかな?」「前はどんな形だったかな?」「どうしてこうなったと思う?」など、子供たちの観察や思考を促すオープンな質問を投げかけます。
- 記録の共有: 子供たちが記録した内容を皆で共有する時間を設けることで、他の子供の気付きに触れたり、新たな発見があったりします。
- 失敗を恐れない雰囲気づくり: 予想と違う変化が起きたり、うまく記録できなかったりしても、「どうしてだろうね?」と一緒に考え、次に繋げるポジティブな声かけをします。
まとめ
身近な「変化」を記録する遊びは、子供たちの観察力、探求心、表現力、そして学びに向かう力を総合的に育むことができる、シンプルながらも奥深い活動です。日々の保育の中で起こる様々な変化に注目し、子供たちの「なぜだろう?」「どうなっているんだろう?」という自然な問いかけを大切に受け止め、それを記録という形で表現する機会を提供することで、子供たちは自ら学び、成長していく喜びを実感できるでしょう。この遊びを通して、子供たちの「好き」のスイッチをたくさん見つけ、刺激していきましょう。