むかしながらの遊びが新しい学びを創る!伝承遊びで子供の社会性・思考力を育む保育アイデア
伝承遊びとは?子供の成長に欠かせない昔ながらの遊びの魅力
伝承遊びとは、親から子へ、そして世代から世代へと受け継がれてきた昔ながらの遊びのことです。特別な道具がなくても、子供たちが集まれば自然と始まり、繰り返される中でルールが少しずつ変化していくこともあります。鬼ごっこ、かくれんぼ、だるまさんがころんだ、あやとり、お手玉、めんこ、おはじきなど、様々な種類があります。
これらの伝承遊びには、子供の身体的な発達だけでなく、社会性や思考力、コミュニケーション能力など、非認知能力を含む多様な学びの要素が詰まっています。現代では様々な遊びやツールがありますが、伝承遊びならではのシンプルなルールと奥深さが、子供たちの「自ら関わりたい」「もっと知りたい」という探求心を刺激するのです。
保育の現場において、伝承遊びを取り入れることは、異年齢交流の機会を生み出したり、子供たちの主体的な遊びを促したりする上で非常に有効です。限られたスペースや予算の中でも実施しやすく、子供たちの「好き」を見つけ、伸ばすための豊かな土壌となり得ます。
具体的な伝承遊びのアイデアと保育での実践方法
いくつかの代表的な伝承遊びを取り上げ、保育の現場でどのように実践できるか、その具体的な方法と子供たちの学びについて解説します。
1. 鬼ごっこ
- 遊びの概要と目的: 鬼が他の子を追いかけ、捕まえるシンプルな追いかけっこです。決められた範囲内で鬼から逃げる、または鬼を交代することで遊びが成り立ちます。
- 準備するもの: 特にありません。広い場所があれば十分です。
- 具体的な手順や方法:
- 遊ぶ範囲を決めます。
- じゃんけんなどで鬼を一人決めます。
- 鬼が数を数えている間に他の子は逃げます(例:「10数える間、鬼は動かない」)。
- 鬼は逃げた子を追いかけ、タッチします。
- タッチされた子が次の鬼になります。
- 年齢別のポイントや難易度調整:
- 3歳児: シンプルなルールで、短い時間で行います。鬼になったらタッチすることを理解できるようにサポートします。距離を短く設定したり、必ず捕まえられる子を鬼にするなどの配慮も有効です。
- 4-5歳児: 逃げる方向を考えたり、友達と協力して鬼から逃れたりする姿が見られます。鬼ごっこの種類(氷鬼、色鬼など)を増やして難易度を上げても良いでしょう。
- 限られたスペースや予算での工夫: 室内で行う場合は、家具などにぶつからないよう安全なスペースを確保し、追いかけるスピードを調整するなどのルールを設けます。園庭の一部やホールなど、安全な範囲を明確にして行います。
- 集団での活動と個別の関わり方: 大人数で楽しめますが、臆病な子や体の動きがゆっくりな子には、無理に参加を促すのではなく、傍で見学することを認めたり、「ここなら安全だよ」と声をかけたりするなど、個々のペースを尊重します。特定のルールが理解できていない子には、遊びの中で繰り返し丁寧に説明します。
- ねらい(子供の学び):
- 身体の発達: 走る、止まる、方向転換するなど、全身運動能力が養われます。
- 社会性・協調性: ルールを守って遊ぶ、友達と協力して鬼から逃げる(氷鬼など)、鬼になった子の気持ちを考えるなど、集団の中での立ち振る舞いや他者への配慮が育まれます。
- 思考力: どこに逃げれば捕まらないか、どうすれば鬼を捕まえられるかなど、状況判断や戦略的な思考力が養われます。
- ルール理解: 遊びのルールを理解し、その中で主体的に行動する力が育まれます。
- 安全に実施するための注意点: 遊ぶ場所の安全を確認し、危険なものを取り除きます。子供たちに、走る際に周囲を見ること、ぶつからないように注意することなどを事前に伝えます。体調が悪い子は無理に参加させません。
- 家庭や他の場所でも応用できるヒント: 公園など、安全な広場があれば家庭でも気軽に楽しめます。人数が少なくても、「しっぽ鬼」などルールをアレンジすれば楽しめます。
- 保護者への説明に役立つ視点: 「鬼ごっこはただ走るだけでなく、ルールを守る大切さや、友達と協力する楽しさ、次にどうすればいいかを考える力が育まれる遊びです。ご家庭でも、安全な場所で少し体を動かす機会として楽しんでみてください。」などと伝えると良いでしょう。
2. だるまさんがころんだ
- 遊びの概要と目的: 鬼が呪文を唱えている間に近づき、呪文が終わって鬼が振り返った時に止まる遊びです。動いているところを見つかったらアウトになります。
- 準備するもの: 特にありません。
- 具体的な手順や方法:
- 鬼を一人決め、壁などの方を向いて立ちます。他の子は鬼から離れて一列に並びます。
- 鬼は「だるまさんがころんだ」と唱えながら振り返ります。
- その間に他の子は鬼に近づきます。
- 鬼は呪文を唱え終えたら振り返り、動いている子を探します。
- 動いていた子を見つけたら、鬼はその子の名前を呼びます。呼ばれた子は元の位置に戻るか、捕まります(ルールによって異なります)。
- 鬼にタッチできた子が次の鬼になります。
- ねらい(子供の学び):
- 身体の発達: バランスを取りながら急に止まる、静止する、という動作が養われます。
- 自己制御: 動きたい気持ちを抑え、静止しようとする自己制御力が育まれます。
- 集中力: 鬼の声や動きを注意深く聞き、見ることで集中力が養われます。
- ルール理解: 複雑すぎないルールの中で、駆け引きや順番を理解し、遵守する力が育まれます。
- 保護者への説明に役立つ視点: 「だるまさんがころんだ」のような止まる遊びは、瞬時に動きを止めたり、静かにじっとしていたりする力を養います。これは、集団行動の中で自分の行動をコントロールする力にもつながります。ご家庭でも、お風呂で「だるまさんがころんだ!」と言って体を洗うのを止めたり、公園の広い場所で試したりするのも楽しいでしょう。」
3. かくれんぼ
- 遊びの概要と目的: 鬼が数を数える間に他の子が隠れ、鬼が隠れた子を探す遊びです。
- 準備するもの: 特にありません。隠れる場所が複数ある場所が必要です。
- 具体的な手順や方法:
- 鬼を一人決め、決められた場所(鬼ごっこの「オニ」の場所)で目を閉じて数を数えます。
- 他の子は鬼が数えている間に隠れます。
- 鬼は数を数え終えたら、「もういいかい?」「まあだだよ」のやり取りの後、「もういいよ!」と言って隠れた子を探しに行きます。
- 鬼は隠れている子を見つけたら、名前を呼びながら鬼ごっこの場所に戻り、「〇〇ちゃん見つけた!」と言ってタッチします。
- 隠れた子は、鬼に見つかる前に鬼ごっこの場所に戻り、「セーフ!」とタッチすれば鬼になりません。
- 最初に捕まった子、または最後まで見つからなかった子が次の鬼になるなど、ルールは様々です。
- ねらい(子供の学び):
- 思考力: どこに隠れれば見つかりにくいか、どうすれば「セーフ」できるかなど、戦略的な思考力や判断力が養われます。
- 空間認識: 隠れる場所を探す過程で、周囲の環境を認識し、空間を把握する力が育まれます。
- 社会性・協調性: 友達と一緒に隠れたり、見つかりそうになった友達に知らせたりするなど、協調性が育まれることがあります。また、ルールを守って隠れる、探すという過程で、集団の中での自己の役割を理解します。
- 我慢・忍耐力: 隠れている間、見つからないようにじっと待つ忍耐力が養われます。
- 保護者への説明に役立つ視点: 「かくれんぼは、隠れる場所を考えるだけでなく、どうすれば安全か、いつ動けばいいかなどを考える、頭を使う遊びです。友達と協力したり、見つからないようにじっと待ったりすることも学びます。ご家庭でも、部屋の中や庭など、安全な範囲で楽しんでみてはいかがでしょうか。」
4. あやとり
- 遊びの概要と目的: 紐一本を使って、指先で様々な形を作る遊びです。一人でも、二人で交互に紐を取っていくことでも楽しめます。
- 準備するもの: 輪にした一本の紐。
- 具体的な手順や方法: 基本となる「ほうき」「川」「田んぼ」などの形から始め、徐々に難しい形に挑戦したり、二人あやとりで友達と協力して一つの形を完成させたりします。
- ねらい(子供の学び):
- 手先の巧緻性: 指先を細かく動かすことで、巧緻性や集中力が養われます。
- 空間認識: 紐の動きや形を理解し、立体的な構成を頭の中でイメージする力が育まれます。
- 記憶力: 形の作り方の手順を覚え、再現することで記憶力が鍛えられます。
- 忍耐力: 難しい形に繰り返し挑戦することで、諦めずに取り組む力が養われます。
- 保護者への説明に役立つ視点: 「あやとりは、指先を使いながら集中して取り組む遊びです。形を作る手順を覚えたり、紐がどんな風に動くかを想像したりすることで、手先の器用さや考える力が育まれます。雨の日など、お家で静かに楽しめる遊びとしてもおすすめです。」
伝承遊びを通じて育まれる「ねらい」の共通点
上記で紹介した遊び以外にも、お手玉やけん玉、めんこ、おはじきなど、様々な伝承遊びがあります。これらの遊びに共通して見られる学びの「ねらい」は、現代社会で子供たちに求められる力と深く結びついています。
- 社会性の発達: ルールを共有し、守ることで社会の約束事の基礎を学びます。友達と役割を交代したり、協力したり、時には競争したりする中で、他者との関わり方を学び、コミュニケーション能力を高めます。負けた時の気持ち、勝った時の気持ちを経験し、感情のコントロールや他者への共感も育まれます。
- 思考力・判断力: 遊びの中で次にどうすれば有利になるか、どうすれば成功するかなど、状況を判断し、戦略を立てる力が養われます。予測不能な展開に対応する力も育まれます。
- 身体能力・五感の発達: 鬼ごっこのように体をダイナミックに動かす遊びもあれば、あやとりのように指先を繊細に使う遊びもあります。様々な動きを通して、身体の使い方が巧みになります。また、音や感触、友達の表情など、五感をフル活用して遊びを深く体験します。
- 集中力・忍耐力: 遊びに没頭することで集中力が高まります。うまくいかなくても繰り返し挑戦したり、順番を待ったりする中で、忍耐力や粘り強さが育まれます。
- 創造性・応用力: 決まったルールの中で遊ぶだけでなく、自分たちでルールを少し変えてみたり、新しい遊び方を考えたりすることもあります。身近なものを使って工夫する中で、創造性や応用力が刺激されます。
保育における伝承遊び実践のポイント
- 導入の工夫: 保育士が率先して楽しそうに遊んで見せたり、絵本や紙芝居で伝承遊びを紹介したりすることで、子供たちの興味を引きつけます。
- ルール説明: 子供たちの発達段階に合わせて、分かりやすい言葉で丁寧にルールを説明します。一度で理解できなくても、遊びながら繰り返し伝えていくことが大切です。
- 安全な環境設定: 遊ぶ場所の安全を確認し、危険がないように整えます。特に体を動かす遊びでは、十分なスペースを確保します。
- 子供たちの主体性を尊重: 保育士が一方的に教え込むのではなく、子供たち自身が遊び方を見つけたり、ルールを決めたりする過程を大切に見守ります。困っている子には、手助けが必要か声をかけながら、寄り添います。
- 異年齢交流の促進: 年上の子が年下の子に遊び方を教えたり、一緒に楽しんだりする機会を作ることで、思いやりやリーダーシップ、慕う気持ちなどが育まれます。
- 記録と共有: 子供たちが伝承遊びを通じてどのような学びを得ているのか、どんな姿を見せているのかを記録し、保育士間で共有することで、子供たちの成長をより深く理解できます。
家庭との連携と保護者への伝え方
園で伝承遊びを行った際は、ぜひ保護者の方にもその様子や、遊びを通じて子供たちが何を学んでいるのかを伝えてみましょう。連絡帳や園だよりで、伝承遊びの紹介や子供たちのエピソードを具体的に記載することで、保護者の方も家庭で子供と一緒に伝承遊びを楽しんだり、園での活動への理解を深めたりすることができます。
「最近、園で〇〇(遊びの名前)が流行っています。最初はルールが難しそうにしていた子もいましたが、友達と関わる中で少しずつ理解し、今ではみんなで楽しんでいます。この遊びを通して、順番を守ること、友達と協力すること、そしてどうすればうまくいくか考える力が育まれています。ぜひ、ご家庭でもお子さんに聞いてみてください。もしよろしければ、簡単なあやとりなど一緒に楽しんでみるのもおすすめです。」のように、具体的な遊びの名前と、それによって育まれる力を伝えることが効果的です。
まとめ:伝承遊びは、未来へつなぐ学びの種
伝承遊びは、シンプルでありながら子供たちの多様な力を育むことができる、貴重な遊びです。体を動かす楽しさ、友達と一緒に遊ぶ喜び、ルールの中で考える面白さなど、子供たちが「わくわく学びスイッチ」をオンにするための要素が詰まっています。
保育士の皆様には、ぜひ子供たちの「好き」という気持ちを大切に、伝承遊びを日々の保育に取り入れていただきたいと思います。遊びの中で子供たちが見せる、ひたむきな姿、工夫する姿、友達と笑い合う姿は、子供たちが未来へ向かうための確かな学びの種となるでしょう。