段ボールを使った秘密基地作りや巨大工作で子供の創造性・空間認識力・協調性を育む:保育での実践アイデアとねらい
段ボール遊びが子供の「好き」を刺激する理由
子供たちは、身近にあるものが変身する様子や、自分たちの手で大きなものを作り上げることに強い興味を持ちます。特に段ボールは、その大きさ、軽さ、加工のしやすさから、子供たちの想像力を掻き立てる最高の素材の一つです。単なる箱や板が、秘密基地になったり、電車になったり、ロボットになったりする。この「見立てる」「創り出す」プロセスこそが、子供たちの内なる「好き」の気持ち、つまり探求心や創造性を強く刺激するのです。
保育の現場でも手に入れやすい段ボールは、子供たちが自ら考え、工夫し、協力しながら遊びを展開していくための無限の可能性を秘めています。この記事では、段ボールを使った遊びが子供のどのような学びにつながるのか、具体的なアイデアと保育士が実践する上でのポイントを解説します。
段ボール遊びの具体的なアイデア
段ボールを使った遊びは多岐にわたりますが、ここでは特に創造性、空間認識力、協調性を育むことに焦点を当てたアイデアを紹介します。
1. 秘密基地・隠れ家づくり
- 遊びの概要と目的: 大きな段ボールや複数の段ボールを組み合わせて、子供たちが自分たちだけの空間を作り出す遊びです。閉じられた空間や、出入り口を工夫することで、特別な場所、安心できる場所としての「秘密基地」が生まれます。これは子供たちの探求心や創造性、「自分の場所」という感覚を育みます。
- 準備するもの: 大小さまざまな段ボール、ガムテープ、ハサミ、カッター(大人が使用)、マジックやクレヨン、布やシートなど装飾に使うもの。
- 具体的な手順:
- 床にシートなどを敷き、遊び場所を確保します。
- 子供たちと「どんな基地にしたい?」と話し合い、簡単なイメージを共有します。
- 段ボールを立てたり、横に倒したり、組み合わせたりしながら、壁や屋根の形を作っていきます。
- ガムテープでしっかりと固定します。
- 出入り口や窓を開ける場所を決め、大人と一緒に安全に注意しながら開けます。
- 段ボールに絵を描いたり、布を貼ったりして装飾を施します。
- 基地の中に、クッションや絵本などを持ち込んで、自分たちの空間を完成させます。
- 年齢別のポイント:
- 乳児: 大きな段ボール箱をそのまま置いて、中に入ったり出たりするだけでも十分楽しめます。段ボールの質感や音を楽しむのも良いでしょう。
- 2-3歳児: 簡単な壁を立てたり、段ボールを繋げたりする作業を一緒にします。破れないようにテープを貼る、色を塗るなどの簡単な装飾活動が中心になります。
- 4-5歳児: 複数の段ボールを組み合わせて複雑な構造に挑戦したり、友達と役割分担をしたりします。設計図(簡単な絵でも可)を描くなど、計画性も育まれます。
- ねらい: 創造性、空間認識力、共同作業(協力)、問題解決力、安心感の獲得、見立てる力、探求心。
2. 巨大な乗り物や生き物づくり
- 遊びの概要と目的: 複数の段ボールを繋げたり組み合わせたりして、子供の体が入るくらいの大きな電車、船、恐竜、ロボットなどを作り上げる遊びです。非日常的な大きなものを自分たちの手で作る体験は、創造性や達成感を強く育みます。
- 準備するもの: 大きな段ボール、ガムテープ、接着剤、ハサミ、カッター(大人が使用)、絵の具、筆、装飾用の様々な素材(ペットボトルキャップ、トイレットペーパーの芯など)。
- 具体的な手順:
- 子供たちと何を作るかテーマを決めます。
- 集めた段ボールを、テーマに合わせて切ったり、形を変えたりします(大人が補助)。
- 段ボールを繋ぎ合わせ、ガムテープなどで固定して立体的な形を作ります。
- 窓や扉、顔、手足などの細かい部分を取り付けていきます。
- 絵の具で色を塗ったり、廃材などで飾り付けをしたりして完成させます。
- 作った乗り物や生き物を使って、ごっこ遊びに発展させます。
- ねらい: 創造性、空間認識力、共同作業、問題解決力、表現力、達成感、廃材活用の意識。
段ボール遊びで育まれる学び(ねらいの深掘り)
段ボールを使った遊びは、様々な側面から子供たちの成長をサポートします。
- 創造性と想像力: 段ボールが何かに「変身」する過程そのものが創造力を刺激します。ゼロからアイデアを形にする経験は、自由な発想を育みます。
- 空間認識力と構成力: 平面的な段ボールが立体的な構造になる過程で、子供たちは空間をどのように使うか、どう組み合わせれば形になるかを感覚的に学びます。これにより、物体の位置関係や形状を把握する空間認識力、そして全体像を考えて組み立てる構成力が養われます。
- 問題解決力と探求心: 「どうしたら繋がるかな?」「ここを開けたいな」「倒れないようにするには?」など、遊びの中で様々な課題に直面します。それを自分たちで考え、試行錯誤し、解決していく過程で、問題解決能力と探求心が育まれます。
- 協調性とコミュニケーション能力: 大きなものを作る場合は、友達と協力したり、役割分担をしたりする必要があります。「ここを持ってて」「テープちょうだい」など、自然な形で言葉のやり取りが生まれ、社会性やコミュニケーション能力が向上します。
- 五感の発達: 段ボールのザラザラした手触り、切った時の音、絵の具の匂いなど、多様な感覚刺激を受けます。
- 集中力と達成感: 一つの目標に向かってじっくりと作業に取り組むことで集中力が養われます。完成した時の喜びは、大きな達成感と自信につながります。
実践上のポイントと安全への配慮
段ボール遊びを安全に、そして効果的に行うためにはいくつかのポイントがあります。
- 適切な段ボールの準備: サイズや形状が様々な段ボールを用意すると、子供たちのアイデアが広がりやすくなります。角が潰れていないか、汚れていないかなどを確認しましょう。
- 場所の確保: 大きなものを作る可能性があるため、ある程度広く、作業がしやすい場所を確保します。汚れても良いようにシートなどを敷くことも検討しましょう。
- 道具の使い方と安全管理: ハサミやカッターは必ず大人が管理し、使用する際も子供の近くで行う場合は特に安全に配慮します。カッターは段ボールの切断に便利ですが、子供には触らせない、使う場所を限定するなど徹底した注意が必要です。段ボールの切り口で手を切らないよう注意を促し、破片はこまめに片付けます。
- 無理強いしない: 全員が同じものを作る必要はありません。大きな共同製作に参加する子、一人で小さな作品を作る子、ただ段ボールの中に入って楽しむ子など、それぞれの「好き」や関心に合わせて自由な関わり方ができるように見守りましょう。
- 過程を大切にする: 完成品だけでなく、アイデアを出し合ったり、試行錯誤したりする過程そのものが子供たちの学びとなります。作品が思い通りにならなくても、「どうすればうまくいくかな?」と一緒に考える時間を持つことが大切です。
- 応用と発展: 作った段ボール作品を使ってごっこ遊びを展開したり、他の素材(新聞紙、ペットボトル、布など)と組み合わせたりすることで、遊びがさらに深まります。
限られた環境や予算での工夫
- 段ボールの入手: 近所のスーパーやドラッグストアにお願いすると、多くの段ボールを譲ってもらえることがあります。様々なサイズのものを集めましょう。
- スペースの有効活用: 常設が難しければ、活動する時間だけスペースを確保し、遊び終わったら折りたたんで収納できるような工夫をします。壁面や窓に段ボールを貼って装飾するなど、平面でも楽しめる方法もあります。
- 道具の工夫: 高価な専用カッターでなくても、家庭用のカッターや大きめのハサミで十分に作業できます。絵の具の代わりに、余った包装紙や広告などを貼り付けるのも良いでしょう。
保護者への説明に役立つ視点
保護者の方には、「この段ボール遊びを通して、お子さんの自由な発想力や、友達と協力する力が育まれています」「大きなものを作り上げることで、達成感や自信にも繋がります」といった、遊びの「ねらい」や「育まれる力」を具体的に伝えると良いでしょう。家庭でも不要な段ボールを活用して、子供と一緒に簡単な工作を楽しんでみることを提案するのも良いでしょう。
段ボールは、子供たちの創造力と探求心を刺激する身近で素晴らしい素材です。安全に配慮しながら、子供たちの「こうしたい!」という気持ちを大切に、自由な発想で段ボール遊びを楽しんでみてください。